とてもバカな作品だった(褒め言葉)。もう、「バカ」という言葉しか思いつかない(褒め言葉)。どうしたらこんなにくだらないものが作れるのか(褒め言葉)。自分には到底真似できそうにない(褒め言葉)。

とにかく始終笑いっぱなし。その技術と熱量にただただ圧倒された90分であった。熊本でこういう芝居を観る機会もなかなか少ない気がする。みんなもっと弾けてもいいのではないか。バカを極限まで追求した作品というのは、社会問題を取り上げ世に鋭く問いかけている作品や、心理描写に拘り人間を深く描いた作品や、ある種の天才がその先進的な感性で作り上げた前衛的な作品などと同じくらい価値があるものなのだ。

一口にバカな芝居と言っても、大きく分けて二種類ある。バカな人がそのままバカをしているものと、実は真面目な人が真面目にバカをしているものだ。どちらが良い悪いということはないが、中途半端だと白けてしまう。バカをするなら突き抜けた方がいい。

真夜中ミサイル『ミサイル危機一髪』は、とても真面目な人達がとことんくだらないバカをやっている、最高にバカな作品だった。ちなみに私が所属しているin.K. Musical Studioはバカな人がバカをやっている系の作品が多い。こちらはこちらでおススメである。この場を借りて宣伝しておく。

舞台はとある地方銀行。登場するるのは、気の弱い店長と不真面目な女子行員、どうしても金が必要な訳アリ政治家秘書、同じくとある事情でお金が必要な電気屋のお父さん、そしてちょっと抜けている二人組の強盗だ。政治家秘書と電気屋のお父さんが行員と悶着をしているところに強盗が押し入り、銀行は混乱に陥るというドタバタのシチュエーションコメディである。「そんなのあり得ないだろ」と言いたくなる荒唐無稽な展開も多いが、なぜだか気付かないうちに受け入れてしまっている。これは、役者の力量が高さが要因の一つだろう。とにかく芝居巧者が揃ってる。熊本でも人気の俳優達だ。普段はこんなふざけた役をするなど考えられないくらい真面目な役者もいるが、その真面目さ故か、完璧なコメディを演じきっていた。

もう一つの要因は、脚本と演出の力である。こんな半分勢いで構成されたような作品は、お客に疑問を持たせたら終りだ。一瞬でも現実に戻ったらもう帰って来れない。ストーリーにも笑いの質にもシビアなバランス感覚が必要とされる。もちろん分かっているのだろう。会場の笑い声は最後まで絶えることがなかった。

笑いというのは洗脳のようでもある。どんなバカな内容でも一旦ツボに入ってしまったら、もう全てを受け入れるしかない。しばらく時間を置いてようやく、なぜあんなバカな話に心奪われていたのだろうか、と頭を捻るのだ。

この日銀行に集まった6人は、幾多の試練を乗り越え、やがて犯人と人質という垣根を越え、共通の目的を持つ仲間になっていた。いつの間にか手段と目的が入れ替わっているような気もするが、もうそんなのどうでもよくなってる。バラバラだった他人同士が一つになる物語というのはどうしてこう胸を熱くするのだろう。やがて話は急展開を迎え、衝撃のラストへ。カーテンコールで盛大な拍手を送り、感動が覚めやらぬ足取りで帰路につく。電車の中で数人の友達に「面白かったよ」とLINEを送るのを忘れない。家に戻り、風呂に入りながら今日観た芝居のことを思い返す。そこらへんでようやく我に返るのである。はて、なぜ自分はあんなバカな話で感動していたのか。

音楽と演劇と妖怪が好き / 所属:あったかハートふれあい劇団、in.K. musical studio、劇団妖怪ぶるぶる絵巻 / ブログ→https://chiroboo6251.hatenablog.com/ / だいたいいつもさみしい。