個性的な登場人物。劇中には笑いどころもいっぱい。時に愉快に、時にしっとりと、作品を彩る音楽のレベルは高い。ストーリーはよく作られており、幾多の困難を乗り越え最後はハッピーエンド。観終わった最初の感想は「あー楽しかった!」……とはならなかった。

つまらなかった訳ではない。とても楽しかったのは間違いないのだ。腹を抱えて笑って、ストーリーに惹きこまれて、十二分に満足したのだ。でも胸にモヤモヤしたものが引っかかっている。なんだか苦しい。これはいったい何なのだろうか。いや、本当はよく知っている。それは「生みの苦しみ」と呼ばれているものだ。

「タイトル・オブ・ショウ」はミュージカルを作ろうとする人達を描いたミュージカルだ。作家のハンターと作曲家のジェフはフェスティバルに応募しようとミュージカルを作りはじめるのだが、締め切りまで3週間。原稿は真っ白。そこで思いついたのが、ミュージカルを作る過程をそのままミュージカルにすること。二人の親友で女優のスーザンとハイディ、そしてピアニストのエレンも加わり作品作りは進んでいく。その過程は調子のよい台詞と歌で表現され、観る者を笑わせ、驚かせ、夢の世界へ連れて行くことだろう。

でも演劇作品を、いや、芸術作品を作ったことがある人間だったらきっと分かるはずだ。「タイトル・オブ・ショウ」が描いているのは”夢の世界”なんて生易しいものではない。作家が味わう苦しみを描いた作品であるということに。

一応、私も作・演出で演劇作品を作ったことがある人間だ。生みの苦しみは嫌というほど味わった。例えば、最初の一文が書き出せずに途方に暮れたことがある。まるまる一週間、一文字も書けずに絶望的な時間を過ごしたことがある。後で読み返すとつまらなく思い、一月以上かけて書いた部分を思い切って消してしまったことがある。作品を最初に誰かに見せる時は、怖くて泣きそうになった。最初は面白いと思って作っていった部分も、途中で本当に面白いのか分からなくなり、逃げ出そうかと本気で悩んだ。公演など中止にしようかとも思った。思うように進まずに仲間を恨んだりもした。稽古場を険悪な空気にしてしまったこともある。目的を見失うことはしばしばだ。方向性は2転3転した。

そんな苦い思い出の一つ一つを、「タイトル・オブ・ショウ」は丁寧にほじくり返していくのだ。うまくデフォルメされているので、あるいは気付かずにただの”楽しいミュージカル”で終わらせることができるかもしれない。でもあなたが作り手の側の人間なら注意した方がいいだろう。そうまで苦しんで、我々はなぜ作品を作り続けるのだろうか。名誉?お金?それとも地位? ジェフやハンター達が最後に目指したものは何だったのか。そこはぜひ作品を観て確かめてほしい。

「タイトル・オブ・ショウ」はブロードウェイミュージカルだ。これまで何度も公演を重ねて、日本でも上演されてきた。評価されているポイントはだいたい「ミュージカルのパロディがふんだんで、ギャグが面白くて楽しかった」ということだろうか。私に言わせると、とんでもない。それは浅はかというものだろう。

「タイトル・オブ・ショウ」の魅力。それは、表現者の夢と、夢に至るまでの道のりを丁寧に描いた作品であるということだ。そして、自分も再び「挑戦したい!」と思わせてくれることなのだ。

熊本でギター弾いたりお芝居したりしてます。 あったかハートふれあい劇団、in.K. Musical Studio、劇団妖怪ぶるぶる絵巻。だいたいいつもさみしい。