不思議少年はその活動形態も不思議である。熊本の劇団なのに、熊本以外の地域で公演することが多く、地元で観劇できる機会がずいぶんと少ない。2009年に結成した彼らの演劇公演は今回の『地球ブルース』で第13回となり、可能ならば必ず行ってるはずなのに、半分も観られてないのである。前回観たのは2015年上演の『Q』、その前は2013年上演の『東京ジャングル』だった。もっと熊本で公演してよ! とこの場を借りて文句を言っておく。

さて、今回の『地球ブルース』であるが、何と表現したら良いのだろう……、とても歪な形をした作品だった。

物語は、まず中年女性の割と重たい独白から始まる。まるで劇団きららの池田美樹さんが得意とする痛くて苦しいリアル志向の作品だろうか……と思いきや、いきなりファンタジーコメディになる。なるほどこういう路線でいくのねと思っていたら、いつの間にか恋愛物になってきて、そうこうしているうちに壮大なSF作品へと変わっていく。SFといっても、タイムトラベル、近未来、アクション、とバリエーション豊かで、とにかく主題がコロコロ変わっていく。でもまあ話の中心になるのは、男女が遠い旅路の果てに巡り合うというラブストーリーだったようだ。

普段、私は物語の形をよく「木」にたとえる。良い物語には、“主題”と呼ばれる1本の大きな幹が必ずあって、その下には、見えないけど幹をしっかりと支えている“情報”という大きな根があり、周りには“飾り”である多くの枝葉が生い茂って木を彩っているものだ。このバランスが上手く取れていないと作品はつまらなくなる。よくある失敗が、幹が2~3本あったり、根が少なくて全体を支えられてなかったり、枝葉が多すぎて幹が折れそうになっていたり、あるいは枝葉が少なくて寂しくなってるパターンだったり。他人の作品を批判するときは、どの部分のバランスが取れてないかを伝えると理解してもらいやすい。

『地球ブルース』はどうだったか。なんと、これが見事にでたらめだった!

幹は何本も乱立し、枝葉は茂ってたり果物が生ってたり紅葉してたり枯れてたりバラバラ。根はあったのかもしれないけど判別できなかった。では、つまらなかったのかというと……これが面白かったのだ。普通これだけ歪な形をしてると、アンケートに「何だかよく分かりませんでした」とか書かれて終わりである。でも実際は、客席の笑い声はやまず、飽きる瞬間はなかった。こんなスタイルの作品は観たことがない。どんな作り方をすればこんな作品が生まれるのだろうか。

これは仮説だが、『地球ブルース」の主題はたぶん、ラブストーリーなどではない。幹に思えた恋愛物語は、実は太い枝であり、その下には「いい歳した大人たちのごっこ遊び」という大きな幹があったのではなかっただろうか。出演者の4人は全員が非常に高い演技力と技術を持っていた。その演技力と技術を駆使し、コロコロ変わっていく状況に合わせてポンポンと小気味よく面白い芝居を繰り出していく。私にはそれが、子どもたちが無邪気に遊んでいる姿のようにも見えた。物語を語るのではなく遊び倒す。その姿があまりにも楽しそうだから、客も目が離せず、つられて笑ってしまうのだ。

ひょっとしてこの効果も全て計算した上での脚本で、これが大迫氏のスタイルなのかもしれない。偉そうに決めつけて論評ぶっているが、見当はずれでもご容赦願いたい。不思議少年の作風を的確に語れるほど私は作品を観ていないのだ。だからもっと熊本で公演してほしい。

音楽と演劇と妖怪が好き / 所属:あったかハートふれあい劇団、in.K. musical studio、劇団妖怪ぶるぶる絵巻 / ブログ→https://chiroboo6251.hatenablog.com/ / だいたいいつもさみしい。