場末の小さなスナック『鈴女』
東京から来たという客に向かって、女店主がその数奇な人生を語り始める――

劇団「石」の“ミニ公演”という位置付けの本作。一人芝居で、キャストは飯冨美雪さん・邑木美保さん・井芹誉子さんの3名が回替わりで務めるという興味深い企画である。3人全員分観たかったのだが都合が付かず、観れたのは邑木美保さんの回のみ。劇団「石」はもっとフランクな芝居をするイメージを持っていたので、「これがあの「石」なのか!?」と驚いてしまうくらい大人の雰囲気が漂う作品だった。聞くところによると、他の2人は演じ方が違ってまったく別の作品になっていたらしい。観れなかったのが口惜しい。

公演は実際のスナックを貸し切って行われていた。どこにでもあるような普通のスナックだ。座席も20席もなかったくらいか。テーブル席に座り、飲み物を片手に、カウンターの奥で語り続ける女店主の話を聞いてると、それがお芝居だということをつい忘れそうになってしまう。女店主が若い頃、夢を目指して東京に行き、活躍し、挫折し、男と出会い、そして別れるーー。そんな彼女自身の人生をつらつらと語るという内容だった。演出として一般の男性客の一人がカウンター席に座らされ、話の聞き役になっていたのだが、その男性の背中を通して女店主の息遣いやら香水と煙草の混ざった匂いやらが伝わって来る気すらしていた。

実を言うと、私は一人芝居というものがあまり好きではない。演劇の一番の魅力は、人間同士の掛け合いにあると思っている。それがない一人芝居はどうにも苦手なのだ。だから今回の芝居もあまり期待しないで行った。退屈しないで観れればいいだろうくらいに思っていたのだが……これが実に楽しめてしまったのだ。なぜだろう。単純にストーリーが面白かったというのもあるかもしれない。演出が良かったというのもあるかもしれない。私が一つ思い至ったのは、“女性の話好きという特性を活かしていたから”という理由だ。

『ワン・ウーマン・ショー』を観た一週間後、とある女性と話をする機会があった。夢を目指して東京に行き、そこで頑張っている女性だ。『ワン・ウーマン・ショー』の女主人と、境遇が最初の方が少しだけ似ている。その女性が東京に出てから何をしていたのか、延々と8時間も語って聞かせてくれた。さすがに疲れたが、語り口が面白くて最後まで聞き入ってしまった。よくもまあ飽きもせず、聞く方を飽きさせもせず、これだけパワフルに語れるものだ。

元来、女性は話好きである。それは人が言葉を持った太古の昔にまで原因を求めることができるという。狩猟で生活していた時代、狩りで獲物を得ることが男性の重要な仕事だったのに対し、女性は集団の中でコミュニケーションを取り、人間関係を築くのが重要な仕事だった。そのため、“しゃべる”ことに対して脳の進化に男女差があるというのだ。人に自分の話を語って聞かせることに関して、女性は天賦の才を持っているのだろう。件の東京の女性の話を聞きながら、ふとそんなことを考えていた。そして『ワン・ウーマン・ショー』は、この女性の特性を遺憾なく発揮させようとして生み出された作品ではなかったのだろうか。物語のラストでは、捻りの効いたオチが用意されていた。女性の巧みさを感じさせる小気味の良いオチだが、同時に女性を怖ろしくも感じてしまう。一筋縄ではいかないのは、今回の脚本を務めた川津羊太郎氏らしいところだ。

音楽と演劇と妖怪が好き / 所属:あったかハートふれあい劇団、in.K. musical studio、劇団妖怪ぶるぶる絵巻 / ブログ→https://chiroboo6251.hatenablog.com/ / だいたいいつもさみしい。